「ペトロか、イエスか」
更新日:2022.3.8
マルコによる福音書第8章27-33節(新77頁)
東京神学大学 田村 敏紀神学生
主イエスが突然立ち止まって、「では、あなたがたは、私を何者だと思うのか」と質問してきました。兄弟子ペトロが答えます。「あなたこそメシアです」と。その意味は、このカナンの地に、ダビデ、ソロモンに続くユダヤ人国家の再建を、主イエスに期待したということです。
しかし主イエスは、ご自分の苦難と死と復活を公言します。兄弟子ペトロが「あなたはイスラエル国家の王になる方ですよ。今からそんな弱音を吐いてどうするのですか」と諫めます。それに対して主イエスは「サタン、引き下がれ」と一喝します。ペトロを「サタン」と断言し、完全に拒絶します。
私たちはこの言い方から、主イエスの宣教開始直後の悪魔の誘惑を思い出します。悪魔はこの世のすべての国々を主イエスに見せて、「これをみんな与えよう」と言ったのです。そのサタンに対して、主イエスは、「退け、サタン」と一喝しました。主イエスの立場は、ペトロの立場とは、まったく異なっていたのです。
マルコによる福音書の12章で主イエスはこう言いました。「第一の掟は、あなたの神である主を愛しなさい。第二は、隣人を自分のように愛しなさい」と。さらにマルコによる福音書14章のゲッセマネの場面で主イエスはこう祈られました。「私が願うことではなく、御心に適うことが行われますように」と。どちらの場面も、神様の御心が第一であり、人間の思いが第二になります。ペトロの立場は、どこまでも人間の思いだったのです。
主イエスが、ペトロを「サタン」と断罪し、その願いを退けられた瞬間、すべての人類が救いの対象になったのです。しかも永遠に。主イエスがペトロを退けられたことによって、全人類に「永遠の命」へと至る道が用意されたのです。
(2022年2月27日礼拝説教より)